アトポス便りバックナンバー
あっという間の12月。金沢では「弁当忘れても傘忘れるな」という諺通りに、毎日めまぐるしい空模様となっています。本日も夜中の稲光、強い雨模様と風が吹き荒れています。低気圧の継続で体もだるくなり、気力を上げるには朝の体操と胸張りしかありません。当然オフィスにはヨーグルトを作り、誰もが飲めるようにしていますよ。だから、誰もあまり風邪など引きません。
さて、皮膚改善を目的にサポートしている当方の見解では、腸管や肝腎機能・神経系のアンバランスであり、その改善なしには本当の克服はありえないのだ・・。は、間違いないのですが、皮膚の崩壊によって、さらにその根源をも崩すということもあり、長期に悪化を続けた皆様の改善が長くなるということも少し理解できるでしょう。さ、じっくりお読みください。(※判らない横文字など多く出てきますが、辞書などでお調べください)
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┃1.情報伝達物質を生み出す皮膚
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ほんの四半世紀前ぐらいまで、皮膚は単にバリアをつくるだけの臓器であると考えられていました。
ところが1980年代になって、皮膚、とりわけ表皮が外部刺激などによってさまざまな情報伝達物質を合成し放出していることが明らかになってきました。
たとえば、サイトカインと呼ばれる一群のタンパク質があります。これはかつては白血球に代表される免疫系細胞のみで合成・放出され、免疫細胞の活性化、免疫応答の調節、炎症反応の調整に関わるものであると考えられてきました。
ところが、その後、表皮にあるケラチノサイト細胞に紫外線を照射したり、角層のバリア機能を破壊したりすると、ケラチノサイトもサイトカインを合成し、それを放出することがわかってきました。
それだけではありません。末梢神経が放出する神経系の情報伝達物質や、各種ホルモンにいたるまで、表皮ケラチノサイトも状況によってはそれらを合成し放出することが次々に発見されました。
皮膚は実は免疫をつかさどる最前線の臓器であり、さらには身体のホルモンのバランスにも影響していることが明らかになってきました。
■皮膚は免疫をつかさどる臓器である
肝臓や腎臓を近親者から移植するというケースはよくあります。全くの他人からの心臓移植も前例があります。ところが皮膚は他人のものはまず移植できません。移植してもすぐに剥がれ落ちてしまいます。
免疫とは、自己と非自己を見分ける機構であります。身体の中に異物、たとえば細菌などが入り込んできたとき、それを殺し排除するのが免疫系の根本的な役割です。その機構の詳細については専門書に譲るとして、免疫系の仕組みの基礎はそれが「自分のものではない」物質を見分けることにあります。皮膚にはこの機能があるのです。
それを担っているのは、表皮の中にあるランゲルハンス細胞と呼ばれる、やたら枝を四方八方に伸ばしている細胞です。皮膚にはすでに述べたように優れた物理的なバリア機能があり、細菌などはここで侵入を阻止されます。ところが何かのはずみで物理的バリアが壊れ、異物が皮膚内に入り込んできたとき、それを発見し、全身の免疫系に通報するのが、このランゲルハンス細胞の役割です。
四方八方に枝を伸ばしているのは伊達ではありません。侵入者をすかさず捕らえる役割を果たすためです。「非自己」の侵入者がこの枝に引っかかると、すかさずランゲルハンス細胞は、その一部を手配写真として小脇に抱え、リンパ管にのってTリンパ球やBリンパ球に「こんな奴が入って来たぞ」と通報します。するとその「手配写真」をもとに、そいつを見つけたら直ちに殺してしまう細胞や、そいつを取り囲んでしまうグロブリンというタンパク質がどんどん作られます。
その結果、侵入者は徹底的に排除されるのです。
ドイツのキール大学教授であるプロクシュ博士がおもしろい発見をしています。角層バリア機能をセロテープなどで破壊すると、このランゲルハンス細胞の数が増えます。バリア破壊直後、サランラップのような水を通さない膜で覆うと、この増加は認められなくなります。つまり皮膚のバリア機能は二段階構造になっているのです。
一段目はプラスチック並みの膜で異物の侵入を防ぐ、万一それが破れたときには、ただちに第二段のバリア機能である免疫機能、具体的にはランゲルハンス細胞が増えて免疫バリア機能が増強されるということです。
ただこの表皮の免疫装置も諸刃の剣で、皮膚移植の際には、移植する皮膚、される皮膚が互いに「ヨソモノだあ!」と大騒ぎするため、他人の皮膚が一時的にくっついてもせいぜい二、三週間で剥がれ落ちてしまいます。
表皮のバリアが破壊されると、ケラチノサイトは炎症を誘導するサイトカインの合成を始めます。表皮のバリア機能が継続的にダメージを受けると、サイトカインも表皮から放出され続けます。あるいは環境の湿度が低下したり、紫外線や化学物質による刺激もさまざまなサイトカインを誘導します。
また慢性の表皮増殖性異常を伴う皮膚疾患、たとえばアトピー性皮膚炎などでも表皮で恒常的にサイトカインの合成が高まります。
アトピー性皮膚炎では、表皮に進入している末梢神経の数が増えています。ジンマシンでは効果のある抗ヒスタミン剤がアトピー性皮膚炎の痒みにはあまり効かないのは、末梢神経の数が増えているので皮膚が敏感になっているのです。
バリア機能が低下するとNGFが放出されます。アトピー性皮膚炎ではバリア機能の低下が認められますからNGFは放出され続け、皮膚はいよいよ敏感になるという悪循環に陥っていきます。さらにサイトカインは免疫系のシステムにも作用します。さらには間接的に中枢神経系にも影響を及ぼします。
これらの報告から皮膚表面の角層の状態が身体全体の健康に影響する可能性は容易に予想されます。
■皮膚が内分泌系に及ぼす影響
ケラチノサイトはホルモンや神経伝達物質を合成することも最近わかってきました。
たとえばケラチノサイトは神経伝達物質の合成・分解の機能のすべてを有しています。すなわちカテコールアミンの一種であるドーパミン、ノルエピネフリン、エピネフリンといった物質の一連の代謝を行なうことができるのです。さらにケラチノサイトは別の神経伝達物質ACTH、サブスタンスP、べーターエン拭ルフィンも合成しています。これらの物質は情動や全身の状態に大きな影響を及ぼしています。
表皮で合成されても脳に届かないにもかかわらず、なぜ表皮がべーターエンドルフィンを合成しているのかよくわかりません。ただ最近になってべーターエンドルフィンの受容体、すなわちべーターエンドルフィンがくっつくと細胞に影響を及ぼす鍵穴のような分子装置が表皮ケラチノサイトにあることもわかってきました。表皮は表皮でべーターエンドルフィンを合成し、それを皮膚の中での情報伝達に使っているのです。
古くから認められている表皮が全身に及ぼす役割として、ビタミンDの生合成があります。これは表皮が光を受けて遂行されます。ビタミンDは骨の維持に極めて重要であり、そのため長らく母子手帳には「赤ちゃんの日光浴」の必要性が記述されていました。昔の農家などでは農作業中、赤ちゃんを日の当たらないかごに入れっぱなしにした結果、骨の生育に異常をきたす場合が多かったためであろうと考えられます。
しかし最近、この記述は母子手帳から削除されました。これは過度の紫外線照射がガンなどの原因になることがわかったためです。骨の形成に必要な紫外線は今日では通常の生活をおくっていれば十分に得られると考えられています。
それでも乾癬など表皮の異常を示す病変の場合、骨にも異常が認められるのは、表皮のビタミンD合成能の低下によると思われます。
表皮の疾患と他の臓器疾患との関連については多くの報告があります。たいていの場合、内臓の異常が原因であって、皮膚の異常はその結果であると考えられがちです。しかし表皮がかくもさまざまなホルモンや情報伝達物質を産生する能力があることを考慮すると、逆に表皮の異常が他の臓器の異常を惹起している可能性があります。
最近、アトピー性皮膚炎患者の心の問題が皮膚科医から指摘されるようになってきました。ここ二〇年の間に急激に増加したこの疾患に悩む患者には、うつ状態が観察される場合が多いといわれています。その理由としては思春期の患者が、その外見を気にするため、抑うつ状態になる、と説明されています。
しかしアトピー性皮膚炎では表皮は増殖性異常の状態で、神経系にかかわるさまざまなサイトカインを放出していることも知られています。皮膚の状態が異常になることによって、正常な表皮では合成しない物質がつくられたり、あるいは健康な表皮が分泌している物質をつくれなくなったりすることが、精神状態に影響を及ぼしている可能性も否定できないのではないでしょうか。
■皮膚悪化症状が、体内のアンバランスを起こしているということは、多くの経験から確認しています。しかし、その皮膚を戻すにもその内面バランスを先に戻すことが必要となり、どちらが根源かわからなくなります。しかし、これまで多くの経験から、腸内環境・肝腎機能・神経バランスの整備によって、皮膚改善へと結び付けています。
※次回は「皮膚はセンサーである」をお届けします。
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